• カトリック大阪高松大司教区 社会活動センター・シナピス

シナピス事務局こぼれ話(2025年6月)

ビスカルド篤子

4 月25 日 110番通報!


夜7 時過ぎ、退勤支度をしていると、シナピスホームに住むT さんが現れました。 T さんは事情があって、入国管理局の職権(保証金なし、保証人なし)で仮放免許可された人です。 ただこれは一時的な措置で、T さんは「監理人」を見つけるよう入管から指示を受けていました。 このたびT さんは監理人を見つけてシナピスホームを退所することになり、その挨拶に事務所へ来てくれたのでした。


Tさんは監理人になる人と一緒にやってきました。 私はその監理人を名乗る男と二言三言交わしましたが、その人に怪しさを感じ、極力発言を控えるようにしました。 「他にもこんなん仰山おるんやろ、ウチ全部面倒見たるさかいによこして下さい。」 彼の言う「こんなん」はT さんのような仮放免の立場の人を指していました。 「全部面倒見たる」と聞いた瞬間、この男は就労禁止の仮放免者を働かせて利益を吸い上げる「貧困ビジネス」の関係者だと直感しました。私は思わず「T君、嫌だったら行かなくていい」と言いました。この一言に男が「そらどうゆうこっちゃ!」と声を荒げました。


会話がかみ合えば私も議論に乗りますが、その人とは言葉の受け答えが成立しない上に、T さんを蔑む言い方をしたため私は怒りを抑えつつ「お帰りください」とだけ繰り返しました。男は「オラ帰らんぞ!


絶対出ていかんぞ」と居直ってきました。「警察呼びますよ」「呼んでみい、ワシかて警察呼んだる!」理由不明の発言を横に私は110 番通報しました。通報中、男は私のそばで大声で喚き散らし通話を妨害してきました。警察は「直ちに出動します」と電話を切りました。すると男は「T 君、外で30 秒だけ待ったる。ワシについてくるんかここに残るんか決めろ」と言い捨ててシナピスから出ていきました。 「T君、あの人はどういう人?」と私は尋ねましたが、Tさんは、顔を歪めてしばらく黙ってから「お父さんみたいな人」と答え、男の車に乗って去ってゆきました。


その直後に警察官が到着しました。 事の顛末を話すと警察官は「危険でした。これからは躊躇せず110 番してください」と言いました。
守ってほしいのは、私だけでなくTさんも、ですが、その時思ったのです。「市民扱いされない立場の人」は守ってはもらえないのだと。 闇夜に消えたT さんが人間の扱いを受けて生きてくれることを願うばかりです。
入管の監理措置制度は弊害の多い内容で、法の見直しが必要だと思います。


5月9日 なにごとも、会ってナンボの世界です


関西万博では、国連もパビリオンを出しているそうです。その仕事で来日した国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の副高等弁務官が、関西のNGOに会いたいと希望し、交流会が開かれました。
仲介した人によると「せっかく大阪で万博が開かれているので、関西のNGOに特化して活動や課題について知りたい」との国連側の要請があったそうです。その席にシナピスも呼ばれました。


意見交換会で副高等弁務官は、各NGOからの報告を熱心に聞き、最後に率直な感想とOHCHRの役割を語りました。ヨルダン出身の彼女は笑顔の素敵な人でした。 「国連は今、各国からの拠出金が減少し人員も削減され、厳しい状況にある。世界的にも人権を後退させるなか、現場で活動する皆さんと連帯していきたい。」地域で細々と活動を続ける私たちに副高等弁務官は温かい声援を送ってくれました。
交流会では、同じ関西でも私の知らなかったNGOもあって、互いに挨拶を交わしただけでも活力が湧くような明るい空気に包まれていました。各方面で活動を続ける人たちに出会い、私も勇気づけられました。


折しもこの日は未明に新教皇レオ14世が誕生した日です。シナピスがカトリックの団体だと知る人たちが「新教皇もフランシスコさんの路線の方だそうですね」「シナピスの活動がこれからも変わらず続きますように」と声をかけてくれ、意外にも教会の動きとシナピスの活動とを結びつけて見てくれている人がたくさんいることを私は嬉しく思いました。


5月14日 真夜中のSOS


午前1時半、シナピスの携帯電話が鳴りました。心地よい眠りから叩き起こされて電話を取ると、相手は名乗りもせずに「会社の人に暴力されて逃げたですけど、どしたらいいですか」と言うのでした。安眠妨害された私はぶっきら棒に「今、どこですか」と尋ねました。「福岡です。」
福岡!ここは大阪やがな!福岡の誰かを頼ってよね、と私は電話を切りそうになりましたが、「どこかけてもつながらないです」との言葉に私はやっと目が覚めました。


そりゃ真夜中だもん、どこも電話は繋がらないよなあ。致し方ない。私は電気をつけて座り直しました。話を聞くと、会社の上司に首を絞められる暴力を受けた若い女性が日本語のできる友人の所へ逃げ込んできたとのことでした。本人の希望をよく聞いて、日本語のわかる友人と一緒に警察に被害届を出し保護を求めることにしました。困ったらいつでも私に電話するように言いました。


危なかったあ、私。真夜中の電話は滅多にないので構えも備えもしていませんでした。熟睡している最中に名乗らぬ電話でいきなり起こされると、不機嫌丸出しになって話も聞かずに切るところでした。


翌日、女性の友人から無事を知らせるショートメールが届きました。あの時、「明日にしてください」と電話を切ったら被害者も友人も奈落の底に突き落とされたところでした。私は胸をなでおろしました。

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