シナピス運営委員 西口信幸
今回も、報道されない出来事を通して市民に伝えるべき報道の在り方について考えたいと思います。
3月1日、イスラエル軍の撤退を協議する第2段階の調整も 行われないまま、ガザ停戦は第1段階を終了しました。
イスラエルは2日より全物資の搬入を禁止し、電気、水の供給も遮断して2週間、ガザは今、瓦礫の山の中で生命の維持すら困難な絶滅収容所と化しています。トランプの後押しを得て、イスラエルは撤退を口にせず、全人質の解放を求めて、再攻撃も辞さないと脅しています。ガザは今ラマダン(四旬節と聖週間のような行事)、飢餓の中での虐殺は許容できないできないでしょう。このニュースが届く頃には、アメリカ人人質の解放によってガザに静かなラマダンでひとときの平和が訪れていると予想します。
この停戦延長が終わると、ハマスの抵抗虚しく、軍事力による大量虐殺や民族追放、そしてトランプの「リビエラ」化に向けた北ガザの復興が始まることでしょう。今まで語ってきませんでしたが、ヨルダン川西岸地区の「ガザ化」もトランプの後押しで推進されています。1967年から続いたパレスチナ占領を許してきた私たちの「無関心」が生んだ「力による平和」の結末です。
イスラエルとハマスの停戦合意 NHK国際報道(3月13日から14日)
イスラエル軍のガザ地区からの完全撤退や恒久的な停戦を目指す第2段階への移行をめぐり双方の隔たり埋まらず継続が危ぶまれている。イスラエルメディアは、アメリカ特使とイスラエル代表団が会談し、停戦合意の継続に向けて「進展が見られた。」と報じた。人質の解放と引き換えに停戦を数週間続けることにイスラエル側が楽観的な見方を示し、具体的な道筋が見つけられるか、が焦点となっている。また、ガザ地区をアメリカが所有し、住民を移住させるとの主張を修正したトランプをエジプトは評価した。
1)第2段階への移行の隔たりとは? イスラエル軍の「撤退」です。
人質がいなくなり、軍の撤退がなければ、ガザの人々はガザの土地から追われることが容易に想像されます。ネタニエフ首相は「第2段階には入らない」と明言しています。報道機関はなぜ、そのことには触れないのでしょうか?
2)「恒久的停戦」から「停戦の継続」にすり替わっています。
占領による支配が払拭されない「停戦延長」は問題の先送りでしかないことは明白ですが、報道はそれを語りません。
3)住民の移動を主張するトランプの発言の修正とは?
発言は変えていません。「ガザの人は望んでないようだ」暗に、望まないなら地獄を見るとの発言でした。エジプト、ヨルダンから、スーダン、ソマリアへと触手は伸ばされています。
「絶滅収容所」となったガザ(兵糧攻めの200万人のガザ市民) ―― 3月1日より
停戦後も復興の物資、医療品の搬入は許されていませんでしたが、3月2日、すべての物資の搬入を禁止され、電気、水の供給も遮断され、ガザは完全封鎖(生命を維持する全ての物資の搬入を阻止)されました。パレスチナ人道調整官は「1年半も想像を絶する状況に耐えてきた200万人以上のガザの人にとって物資の停止は生命の危機であり、生きる希望を失わせるものとなる」と、意図的な飢餓は戦争犯罪であり、ガザの人々の根絶を目指していると述べています。
加えてUNRWA、OCHA等の国連機関、USAIDアメリカ人道支援機関の活動停止によって現地は機能不全の中で実態も掴めなくなりました。
停戦交渉を巡る真実を伝えるAXIOS情報
そんな中で、英語ネット報道AXIOSがアメリカ内部の情報はそのまま伝えてくれていました。
注目すべきは、ハマスに直接、接したアメリカ特使の会見の報告です。イスラエルはこれまでハマスに直接交渉をさせず、その声が世界に届かないようにしてきました。ガザの市民と同じように、望むことはただ一つ、「イスラエルの占領の終焉」のみです。軍事占領が止めば非武装化、ガザにおけるハマスの存在を含んで全ての条件を飲むことを伝えています。アメリカも会見の後、もみ消しせざるを得ませんでしたが、これが事実であることを無視してはいけません。
停戦合意第2段階に向けて AXIOS(3月8日)
当初の合意では、第2段階に関する交渉は数週間前に開始されるべきだったが、イスラエルは拒否した。今回の交渉が合意の延長であれば、イスラエル軍の撤退やガザの再建など協議が必要だが、トランプのリビエラ計画によって、停戦協定の達成がさらに困難になっている。
アダム・ベーラー人質問題担当特使の人質交渉 AXIOS(3月10日から12日)
人質問題担当のアダム・ベーラー米国特使は何回かのハマスとの交渉の後、「米国との秘密協議でハマスは5年から10年の停戦と完全な捕虜交換を提案する。最終的には武器を放棄し、ガザでの権力を放棄する。」とカン国営テレビに語った。ホワイトハウスはハマスとの直接会談の結果を公表し、独立したパレスチナ国家を含む「公平で公正な解決策」と引き換えに武器を放棄するというハマスの見解を表明した。
ウィトコフ中東特使の停戦延長交渉 AXIOS(3月14日)
ウィトコフ中東特使は14日、①ガザ停戦を4月20日の過越祭まで延長、②ガザへの人道援助物資の輸送の再開、③停戦延長の初日に、ハマスが5人の人質と9人の遺骨を解放、等を含む新提案を出した。長期協定が成立すれば、残りの人質は停戦延長の最終日に解放される。会見の質問の場ではウィトコフの報道官は、長期協定へのコメントについての質問にすぐには返答しなかった。
ウィトコフは、恒久停戦の協議には時間が必要なため、停戦延長の新たな提案を提示したとしているが、ハマス側は合意の第2段階に関する交渉開始の保証がなければ停戦延長には同意しないと公言した。これに対してイスラエルはハマスが米国の提案に同意しなければ、イスラエルが戦争を再開する可能性をほのめかしている。
長期的な平和を求めているハマスの真意が公になった瞬間でした!しかし、多くのイスラエル人を怒らせて、この交渉は封印されて白紙となり、ウィトコフ中東特使に全権を譲ることになりました。
ガザの完全封鎖と再侵攻を武器にして、ラマダン中だけでもイスラム教徒を飢餓と死の恐怖から救うための停戦延長と人質解放という究極の選択を迫るイスラエルの力に押し負けそうな状況です。人道法にも国際法にもかなった展開ではありません。人質全員の奪還の後、ガザを再占領し、200万人の市民を追放し、トランプのリビエラとなるのか、いずれにしてもガザの人々の民族浄化によって、146箇国が承認しているパレスチナの主権の確立はより困難な方向に向かっています。
それでも、土地に根ざした文化を持つガザは決して死に絶えることはありません。
<ガザの壁のメッセージ>
力を持つ者と持たざる者の争いに背を向けるなら、それは力を持つ側に立つことになるのだ。中立な立場などありえない。 バンクシー